ノルウェーの短い夏


Akerbrygge, Oslo
Akerbrygge, Oslo

ノルウェーの夏は短いけれど、そのぶん一日が長い。

 

終電をのがして駅からの道のりを歩いても、明るいし、おまけに星も見えて。治安も良く、自分以外だれも歩いていなくて、空気はおいしい。

駅から歩くのが面倒くさいと思っていたけれど、歩き始めるとなんだか散歩みたいで、気持ち良い。

オスロは一応日が沈みつつ、でも夜中2時でもうっすら明るくて、友達が言っていた通り本当に2時にもう鳥が起きて鳴いている。

冬には家の中に籠っていた人達が、夏になって外で過ごす事が多くなると、人間ウォッチングが出来て嬉しい。その中でも多いのが子供。そしてベビーカー。もう見慣れてきてそんなに目立たないと感じ始めているけれど、ノルウェーに来てすぐは、子供連れやベビーカーを押している人がとても多くてびっくりした。

 

カフェで、カップルがベビーカーを横において一緒に飲んでいたり

1台のバスに5台のベビーカーがたたまずそのまま、普通に乗っていて

大学に赤ちゃんを連れて来る同級生が数人いたり

学生寮の敷地内に保育園が2、3カ所ほどあったり

スーパに買い物に行くと子連れの客ばかりで

大きい自転車に乗ったママの後ろを小さい自転車で懸命に追いかける子供だちの群れをよくみかける。

 

朝ご飯を食べた後、ビーチサンダルを履いて、楽譜いっぱいのリュックをしょって、休みで人が少ないオスロの中心部へと向かう。木が茂った閑散としている通りを歩くのは、なかなか気持ち良い。そんな一見味気ない素朴な毎日が結構私は気に入っている。

毎日6時に起きて、朝に弱い私は意識がもうろうとしているまま川沿いを歩き、ラフマニノフのピアノコンチェルト2番の2楽章を聴きながら、私の眠気は少しずつさめていく。

学校に着いてピアノの椅子に座って楽譜を開くと、私の中でスイッチが入る。途中休憩にはそのスイッチを切って、練習室を出て廊下で会った友達とカフェにアイスティーを買いに行き、相変わらずつたないノルウェー語で会話をする。練習が終わると公園に行ってごろんとしながら友達からもらった恋愛小説を読んだりする。そのうち気持ちよすぎて寝てしまって、なかなか最後までたどりつかない。

お腹がすいて起きて、リュックから朝あわてて作ったサンドイッチをとりだして。食後にまた眠くなるも音大へとむかい、うとうとしながらもピアノを練習。

みんな天気が良い日は練習なんて言葉をどっかにポイっとやって、芝生に寝っころがって体を焼いている。だから音大もがらんとしていて、完全に貸し切り状態。そのおかげで入り口の警備のおにいちゃんと友達に。

 

北欧の過ごしやすさは世界レベルだと思う、本当に。日本みたいに、花火大会やらプールやら、お祭りやら、派手なイベントはないけれど、ただ海を見ながら芝生の上で寝転がって、綺麗な空を見上げて、太陽の光が肌に反射してまぶしくて、家の壁や道にも反射して街を明るくする。

雲の流れにあわせて自分の呼吸もゆったりしてくる。そんな時間が、私に「夏」を感じさせる。辛い事も「ちょっと時間がたてば笑ってふりかえるぐらいになる」って、そう前向きになれる。

この国に来て色々あったけれど、そのおかげで色々な事に気づかされた。練習する事の大切さと、それと同時に、練習だけする事の無意味さなど。自分の音楽性や、考えている音の世界観、哲学的な事、魂が震えるような音色、心が揺さぶられるような響き、聴こえている時の一瞬一瞬がかもしだす雰囲気など、音楽をやっていく上でのモットーみたいなものとか、そういう事をひたすら考えて、いっぱいノートに書き綴っている。

ほんの少し前まで、そういうもの無しで中身の無い演奏を、譜読みして暗譜しただけで完成したと思ってただ弾いていたんだな、誰かに向かって聞かせていたんだと思うと、不思議な気持ちになる。