夏がもうすぐ終わる


Bergen, Norway
Bergen, Norway

「また遠くの国に行っちゃったりするんじゃないよ」

私が暮らす街にも、ご高齢の方が多くいらっしゃる。
先日、ピアノも何もない近所の集会室で、小さなコンサートをひらいた。
その帰り際に、あるおじちゃんに言われたひとこと。

生まれ育った街。
長く暮らした街。

そういう場所のありがたさに気づかないまま、知らない場所への期待だけで外国へと飛び出した。
「海外に行って、はじめて日本の素晴らしさを知った」という日本人は多い。
老人ホームから来てくださったおばあちゃまは涙をうかべていて、その涙をピアノの音でふいてあげたいと思った。
自分は日本どころか、自分がいた街のことすら知らなかったんだなぁ。
「またピアノを聴かせてちょうだいね」。私は、おばあちゃまの優しさに心が熱くなった。

集会室には、学校のバザーとか、シニアいきいき健康体操とか、納涼祭とか、チラシがぎっしり貼ってあって、そういうのって申し訳ないけれど他人事だと思っていたのかもしれない。
今回、電子キーボードをせっせと運んで汗だくになったけれど、街の人が集まれる場所で演奏したことで、地域のことを知ろうと思えるきっかけになったように思う。

映像をつくって演奏と一緒に流したり、
プロジェクターとスクリーンは近所の方が貸してくださって、
家で焼いた少々こげ気味のクッキーをならべたり、
手づくり感のあるコンサートは、ノルウェーでの経験がヒントになっている。

留学を終えて帰る数日前、
前の日の夜にホストマザー秘伝レシピでケーキを焼いて、
ホストファミリーにキャンドルホルダーと花瓶を借りて、
学食からフォークとグラスをこっそり持ってきて(後でちゃんと洗って返したョ)、
学校の小さな練習室で「お別れコンサート」をした。
そのときもなんだかジーンとしたのを今でも覚えている。

そんな中、地元の音楽ホールで、グリーグのピアノ協奏曲を演奏することに。
ノルウェーの代表作品を、自分が育った街で弾くことは、とても緊張するけれど嬉しいこと。
お世話になった方々への感謝を胸に、そして留学で得た宝をこの先へ続けていけるよう、演奏したい。