北欧の情景に思いを馳せながら


 

北の果ての地に長い冬が訪れると、日照時間が短い一日を乗り切るため、人々はキャンドルを灯す。やがて待ちに待ったクリスマスが訪れると、家族や大切な人々が集い、温かい家の中で食卓を囲み優しい空気に包まれる、窓越しに見える雪景色を眺めながら、クリスマスソングを一緒に歌い、再会を喜びあう。 

大自然に囲まれたノルウェーでの生活は、偉大な自然の情景から音楽作品を理解する上でのインスピレーションを得る機会や、自己について考える時間を得ることが多い、極寒の地では必然的に家の中で過ごす事が多くなり、部屋で本を読んだり、自分と向き合う時間が持てる。グリーグも、生活する家とは別に小さな作曲小屋を入り江の岸辺に建て、そこにこもって曲を書いていた。彼は波打ち際に身を置き淋しげな波音に耳を澄ませ、日々何を思っていたのだろう。美しさを持ちながら、同時に厳しさや恐ろしさを持つノルウェーの自然は、それ自体が音楽に似ているように思われる。 

 

グリーグやシベリウスをはじめ北欧音楽は交響曲や管弦楽曲など大規模な作品が多く、小編成の作品が演奏される機会は少ないけれど北欧独特の素朴さや繊細さが、地平線のようにまっすぐと澄んだ旋律によって瑞々しく描写されている。滑稽さに叙情性が見事に織り交ぜられ、針葉樹林に流れる一本の川を彷彿させる。その川に不規則なリズムで舞い落ちる雪は一瞬で消えていってしまい、その雪を一人の人間の一生に重ね合わせ、儚い人生の記録のようだと想像する。

グリーグより前の時代に活躍したシェルルフのピアノ曲は、どんよりと暗い冬の後にやっと待ちわびていた春が訪れる、そういった人々の喜びと日々の生活の様子が目に浮かぶような作品である。転調していく旋律が、まるで澄みきった透明感のある空気、湖畔で流れる雪解け水が奏でるかすかな音、白い霧がかかって静寂に包まれていく、徐々に木陰から差し込む希望に満ちた光などの、自然の変化を表しているかのようだ。

夕暮れ時に、練習に疲れ果て学校近くの湖畔を散歩する。ビロードのようなグラデーションの色を醸し出す夕焼け空が湖の水面に映っている。音楽も、心の内面の意識や感情を繊細に変化させながら、この湖の色のような自己表現をしていく事が出来るだろうか。どのように音楽や日々の出来事に対して常に問いかけるひたむきな姿勢を持ち続ける事ができるだろうか。そう問いながら、帰り道に新緑の光で輝く月を見つけ、楽観や悲観の心情、長調と単調が複雑に交叉した曲想を暗示しているような光と闇の移ろいに、身体を震わせる。

 

厳しい自然の中で生きた作曲家の音楽は聴いていて背筋が冷んやりするような、魂が抜けるような、そんな感覚になるのかもしれない。日々の経験の全てが糧となり感性が磨かれ、そして一瞬一瞬消えてしまう音楽であっても、雨の雫が土に浸透するように人々の心にゆっくりとしみ込んでいってほしいと願う。

(共作:金澤麻子)